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引き分けのないじゃんけんに関する一考察

はじめに

小学校の思い出といえば、給食の余ったデザートを取りあうじゃんけん大会ではないだろうか。 大人になった今でも、面倒くさい雑用を押し付けあう時など、じゃんけんはあらゆる場面で活躍している。 しかし、大人数でのじゃんけんにはひとつ大きな問題がある。 それは引き分けである。 人気のデザートをめぐるじゃんけんなど、参加者が多い場合にはなかなか勝者が決まらない。 「じゃんけんの引き分け」のために日本国民が損失している時間を軽減できれば、 日本の GDP の向上に多少なりとも貢献できるのではないだろうか。

2 人じゃんけん

話を単純化するために、まずは 2 人じゃんけんを考えてみよう。 現状のルールは次のようになっている。

A\Bグーチョキパー
グー引分AB
チョキB引分A
パーAB引分

左に並んでいるのがプレーヤー A の出した手、上に並んでいるのがプレーヤー B の出した手であり、 それぞれの枠の中に勝者を記入した。 見てわかる通り 3 箇所に引き分けがあり、1/3 の確率で日本の GDP を押し下げている。 要はここの部分も勝者を決めてしまえばいいわけだ。 例えば引き分けの場合は A の勝ち、と決めてしまえば次のようになる。

A\Bグーチョキパー
グーAAB
チョキBAA
パーABA

引き分けはなくなった。しかしこれでは見るからに B に不利である。 このじゃんけんでは B は A の半分しか勝つことができないだろう。 このようなじゃんけんが広まると、いずれは B によるクーデターが起き、日本は戦乱の世となってしまうだろう。 ここからわかる教訓は 「プレーヤーの手の組み合わせの中に、すべてのプレーヤーの勝利が同じ数だけなければならない」 ということである。 本稿ではこの性質をじゃんけんが「公平である」と呼ぶことにする。 2 人じゃんけんが公平であるためには、A と B の勝利が同じ数だけなければならない。 しかし、グーチョキパーを使った手の組み合わせは 9 通りであり、2 で割り切れない。 したがって、グーチョキパーを使った 2 人じゃんけんでは、公平なルールを定義することはできない。

ではどうするか。 手の組み合わせの数が 2 で割り切れればよい。 つまり、出せる手の種類を変えればよいのである。 例えば、チョキを禁止したグーパーのみのじゃんけんであれば、次のようなルールを定義できる。

A\Bグーパー
グーAB
パーBA

要するに、2 人の手が同じであれば A の勝ち、異なれば B の勝ちというルールである。 これを丁半博打型じゃんけんと呼ぶことにしよう。 見て分かる通り A と B の勝利は 2 パターンずつで公平である。また引き分けはない。 2 人で何かを決定する場合には是非採用したいルールであるといえる。 唯一問題なのはあらかじめどちらが A(丁)でどちらが B(半)か決めておかなければならないということだろうか。 このプレーヤーによって同じ手でも勝敗が異なる、という性質を「非対称である」と呼ぶことにする。 引き分けのないじゃんけんでは、全員が同じ手を出した場合にも勝敗を決定する必要があるため、 必ず非対称なゲームとなってしまうことに留意が必要である。

ところで、同じグーパーのみを使ったじゃんけんでも、次のようなルールはどうだろうか。

A\Bグーパー
グーAA
パーBB

先ほどの定義に照らせばこのルールも公平であり引き分けがない。 しかし、このルールの勝敗は A の手にのみ依存している。 A は常にグーを出し続け、B は負け続けることになるだろう。 したがって、じゃんけんのルールとしてさきほどの公平性だけでは十分でない。 丁半博打型じゃんけんでは A がどちらの手を選んでも、勝ちと負けの組み合わせが 1 つずつ存在する。 そこで、 「任意のプレーヤーの手を固定した場合、残りのプレーヤーの手の組み合わせの中に、すべてのプレーヤーの勝利が同じ数だけある」 という性質を考える。本稿ではこれを「完全である」と呼ぶことにする。 直感的に明らかなように、あるルールが完全であれば、そのルールは必ず公平でもある。 完全性はじゃんけんに求められる性質としては多少厳しすぎる(※1)が、以降では完全なルールに関して考察することとする。

3 人じゃんけん

では、3 人じゃんけんでは完全かつ引き分けのないルールは定義できるだろうか。 まずは通常のじゃんけんのルールを先ほどと同じように書きだしてみよう。

ABグーチョキパー
Cグーチョキパーグーチョキパーグーチョキパー
グー引分引分(AB)C引分(AC)A引分B引分引分(BC)
チョキ引分(BC)B引分C引分引分(AB)引分引分(AC)A
パーA引分引分(AC)引分引分(BC)B引分(AB)C引分

3 人じゃんけんでは、1/3 の確率で勝者が決まり、1/3 の確率で 2 人が勝ち残り、1/3 の確率で 3 人のまま引き分けとなる。 組み合わせの数は 3×3×3=27 通りであり、3 で割り切れるので公平なルールが作れそうだ。 引き分けを作らないため、この表に適当に勝者を埋めていってみよう。

ABグーチョキパー
Cグーチョキパーグーチョキパーグーチョキパー
グーABC
チョキ
パー

目指すは完全なルールなので、偏りが出ないように 2 週目からは少し順番をずらしてみる。

ABグーチョキパー
Cグーチョキパーグーチョキパーグーチョキパー
グーABCBCA
チョキ
パー

↓↓↓

ABグーチョキパー
Cグーチョキパーグーチョキパーグーチョキパー
グーABCBCACAB
チョキBCACABABC
パーCABABCBCA

あっさりと完全なルールが作れてしまった。 見てわかる通り A, B, C が同じ数(9 個ずつ)入っているし、 特定のプレーヤーの特定の手に着目した場合も常に A, B, C が 3 個ずつ入っている。 このルールを覚えるのは大変そうだが、法則性があるのははっきりしているので、ちょっと名前を置き換えてみよう。 「A」→「0」、「B」→「1」、「C」→「2」、「グー」→「0」、「チョキ」→「1」、「パー」→「2」 と置き換えると次のようになる。

01012
2012012012
0012120201
1120201012
2201012120

法則が見えてきた。プレーヤー 0, 1, 2 がそれぞれ手 x, y, z を出した場合の勝者は次の式で計算できる。

winner(x, y, z) = (x + y + z) mod 3

つまりこのルールも丁半博打型じゃんけんと同じようなものなのだ。 各プレーヤーと数字を 3 で割った余りとが対応付けられ、全員の手の合計値が誰に対応するかで勝敗が決定される。 引き分けがなく、公平かつ完全で、ルールもわかりやすい。 これは今後のじゃんけんの歴史が変わることになりそうだ。 このルールを 3 人あすかぜじゃんけんと呼ぼう。

N 人あすかぜじゃんけん

ここまで来れば人数がもっと増えた場合も簡単だ。 N 人でじゃんけんをする場合、出せる手は 0 以上 N 未満の数値であり、勝者は次の式で計算される。

winner(X) = Σ0≦i<N (Xi) mod N

ただし、Xi はプレーヤー i の出した手を表す。 もちろん任意の Xi の組み合わせに対して winner(X) は一意に定まり、引き分けはない。 また、これが完全であることも明らかで、 プレーヤー 0 からプレーヤー N-2 までの手を固定して プレーヤー N-1 の手のみ考えれば、 起こりうる組み合わせの中で 0 から N-1 まですべてのプレーヤーが 1 回ずつ勝者となる。

なお、最終的に番号は N で割ったあまリのみが使われるので、 プレーヤーの手を 0 以上 N 未満に制限する必要はない。 各プレーヤーが好きな自然数を表明し、それをすべて合計して余りをとっても同じ結果となる。

N 人あすかぜじゃんけんの実行方法

N 人あすかぜじゃんけんの典型的な実行方法は次のようになるだろう。

是非活用してほしい。

脚注

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Last Update: 2012/09/02
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